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Linuxネットワーキングの歴史を学ぶ #1 : パケット交換方式とその歴史(松崎)

こんにちは!ACSD松崎です。昔の社内勉強会の資料を整理していたら、Linuxのネットワークスタックについて勉強していた時の資料が出てきました。埋もれるのも忍びないので、本記事のスペースを借りてブログ記事として再利用していこうと思います。

通信って何だろう?

冒頭のような疑問を皆さんは思ったことがありますでしょうか?色んな定義が可能に思いますが自分は以下の定義が好きです。

通信の根本的な課題は、ある地点において選ばれたメッセージを別の地点で正確にあるいは近似的に復元することである。

筑摩書房 通信の数学的理論 / クロード・E.シャノン 著, ワレン・ウィーバー 著, 植松 友彦 著 P61

つまり、「ある場所にある情報を別の場所に復元(コピー)することが通信の本質」ということですね。

本連載では、その通信の技術の歴史をLinuxの文脈を中心に勉強した際のメモを記事化していきたいと思います。

パケット交換方式とその歴史

現代のIT通信は、 パケット交換(Packet switching) 方式を採用しており、通信により運ばれる情報を「パケット」という複数の小包に分けて転送します。パケット交換方式とよく対比されると通信方式として、回線交換(Circuit Switching)方式があり、回線交換方式では1つの回線を使って1つの通信しかできないのに対し、パケット交換方式では1つの回線を使って複数の通信を実行できるという差分があります。詳細は以下の記事に詳しいです。

歴史的に見ると、パケット交換方式の大本となるアイデアは、ランド研究所のポール・バラン(Paul Baran)氏が考案の メッセージ・ブロック という概念が起源のようです。
*1

バランは、伝送速度が異なるこれらの通信手段を相互接続する方法を考え、メッセージを標準的なメッセージ・ブロックに分割して、それぞれのブロックに宛名と送り主の住所と標識を付加することを思いついた。
連載:インターネット・サイエンスの歴史人物館(7)ポール・バラン | 情報通信(ICT) | スマートグリッドフォーラム

この「メッセージ・ブロック」という構想は当初あまり受入れられませんでしたが、ドナルド・ワッツ・デービス(Donald Davies)*2によって、再発見され「パケット」という名称を付与されたことで、今日のパケット交換方式の基礎が作られた...そんな経緯のようです。

デービスは65年12月に、蓄積交換型のデジタル通信網の青写真を描き、66年にロンドンで開催された会議でその構想を発表した。デービスの講演を聴いた英国国防省(Ministry of Defense)の人物はデービスに、米国のバランが極めて似たネットワークを提案していることを伝えた。ロバーツは66年12月にARPA IPTOのチーフサイエンティストになり、67年10月に開催された米コンピュータ学会(ACM)のOSの会議でARPANETの構想を発表した。デービスはこの会議で、メッセージ・ブロックを「パケット」と表現し、バランの「分散コミュニケーションについて」の論文に言及した。

sgforum.impress.co.jp

発表されたペーパーもインターネットに残っている様子でしたので、機会があれば読んでみたいと思いました。

Multiple computer networks and intercomputer communication

ARPANET(さわりだけ)

前項でARPANETという言葉が出てきましたが、これは、アメリカの国防総省によってつくられた世界発のパケット通信ネットワークを指します。このARPANETですが、前項の最後の引用箇所で

ロバーツは66年12月にARPA IPTOのチーフサイエンティストになり、67年10月に開催された米コンピュータ学会(ACM)のOSの会議でARPANETの構想を発表した。

という箇所があり、こちらも同じ時期に構想の策定が進んでいたことがわかります。

この際の発表ですが、こちらもインターネットで確認できます。

Multiple computer networks and intercomputer communication

全部で6pの簡素な資料なのですが、最後のページにARPANETの初期概念図的なものと見られる図版もあり、「ここからインターネットの歴史が始まったのか!」と考えると個人的に非常に胸が熱くなります。

というわけで、次回はARPANETについて記事を書こうと思います。

終わりに

いかがでしたでしょうか?最先端の技術も面白いけど、技術史とか考古学的な内容も面白いと思っていますので、このような感じでほそぼそと続けていこうと思います。

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本記事の投稿者: Shin Matsuzaki
個人ブログ

*1:このポール・バラン氏はパケット交換方式だけでなく、ルーティングアルゴリズムの基礎も考案していたり、Fault TolerantなDistributed Networkを初期から志向していたりと、とても興味深い方の方です。本項の執筆時点ではあまり詳細に氏の業績を理解できていないので、どこかで腰を据えて関連文章を読みたいなと思いました。

*2:後にARPANETの開発に大きく貢献する型です