SIS事業本部の長谷川です。
"イベントレポーター"に任命され、JANOG44に行ってきました。
参加したセッションの概要と所感を、前・後編に分けてご紹介します。
今回は前編(7/25)です。
JANOGとは?
Japan Network Operators' Groupの略称。
その名の通り、日本のネットワーク運用者の集いで、年に2回(1月と7月)に地方でイベントが開催されています。
(次回は2020年01月に札幌で開催予定です)
JANOG Meeting 44 in KOBE 開催概要
日時:2019年07月24日(水) ~ 07月26日(金)
場所:神戸国際展示場
参加人数
・本会議:1602名(前回より約600人増加)
・懇親会939名(前回より約300人増加)
・Streaming 視聴回数:3500回
・Streaming 最高視聴数:300人
会場の様子
07/25 参加プログラム
ネットワークの中立性の原則とルール
【主旨】
本来インターネットの持つ中立性、公平性を保つためのルール作りの現状
(中立性、公平性とは特定のユーザーやアプリケーションが優遇、冷遇されていない状態のこと)
【概要】
- 日本のインターネット全体のTrafficは増加の一途をたどっているが、昨年から伸び率が20%程低下した(増加はしている)
- 現在の中立性のルール国際情勢
・EU →積極的にTrafficに規制をかけて中立性を保つ方法
・FCC(連邦通信委員会:アメリカ) →2015年3大ルールを基にした規制をしない方針
(3大ルール:No blocking, No throttling, No paid prioritization)
しかし2017年にインターネットフリーダム命令が発令され3大ルールが廃止される
本来の意味でのフリーダム(規制をかけることもできる)状態になった - 制御方法については以下が存在する
・帯域制御:帯域に応じてTrafficを制御する方法
・優先制御:特定のパケットの通信を、そのほかのパケットよりも優先する制御の方法 - 日本の現状
2006年ごろに一度制度を決めようとした経緯がある
2006年ごろにはP2P通信が多かったので、それを規制するルールを策定する方針で行われていた
しかしその後いったん議論は中断され2018年に再度議論が再開された
2018年のTrafficの状況としては動画系統のTrafficが多く2006年ごろとは状況が違う
さらにはゼロレーティングと呼ばれる特定のアプリ、サイトを優遇するサービスが発展してきている
(よく聞く「特定のSNS等(LINE等)では通信料を消費しませんよ」というサービス)
【今後の方針】
- 帯域制御
→公平制御を認める方針 - 優先制御
→現状では優先するべきものの「優先順位」がちゃんと決まっていない。上記のゼロレーティングも特定のサービスを優先するという意味で公平性が保たれていないという議論もある
【今後実施するべき内容】
- Trafficの見える化
→優先するべきサービス等を把握するために必要 - Trafficの分散
→帯域の逼迫対策及び災害等に対する冗長性の担保のために必要
ゼロレーティングサービスについて
提供している事業者毎に状況が違う、ゼロレーティングサービスに含むアプリ等の選定方法についても事業者毎に状況が違う。公平性・中立性を保つ意味合いからそもそものサービスの在り方等の議論が必要になる。
【所感】
現状では具体的な部分はあまり決まっていないという印象を受けました。 基準そのものが曖昧な上に、ゼロレーティングサービスそのものも提供している業者毎に状況が変わるため 基準が作れないというのが現状であるという印象です。
【今後について】
これまでは、自分の行っている業務の土台となるルール等には注目していませんでした。 しかし、どういった業務を行うにしても、必ず土台となるルールや背景が存在していると思うので、 現場レベルの細かいルールだけでなく、業界に携わるものとして知っておくべき ルールが多数存在することを、意識していく必要を感じました。
地域IX、ネットワークを考える
【主旨】
地域IXというものが今後どのように展開、利用されていくかについて議論する
【概要】
現在成功している地域IXの紹介をして、なぜ成功したのかと今後どのように発展させてく行くかを考える
地域IXの目的としてはTrafficの分散
以下質問及び意見があった内容
Echigo-IX(地域IXの一つ)
・Trafficの分散という目的を達成するためにまず人間の分散を実行するべき
・運用の分散、リモートでの業務等を可能にすることでうまくいくのではないか
・現状では都会(東京、大阪)に人が集中しているので、いきなりやってもうまくいかないと思うAKAMAI
・キャッシュサーバーを設置する側の意見としてはぜひ利用してみたい
・ただ県単位とかの細かすぎる単位では管理ができない
・ある程度地域レベルで合体していたほうが利用する側としてはやりやすいYahoo
・コンテンツ提供側としても県単位での設置されても利用は難しい
・サーバーの数が増えすぎて管理ができないマルチフィード
・Trafficを分散して混雑対策を行うにしても一体どのように使用するのか
・キャッシュサーバー等を利用したコンテンツの配信ならば分散できると思うが、アプリケーションの提供等は難しいと思う
・また、4K,8Kと言われている時代なので東阪の帯域を太くするべきなんじゃないかNTTCom
・実は15年ほど前に実施していたが、撤退してしまった
・今現在あるIXが地域へ進出するというのは難しい
・Trafficが集中せず、採算が取れずに撤退というのを繰り返しているJPIX
・別にTrafficの分散を実現するためなのであればIXである必要はないと思う
・最初に何をするのかというIXにこだわらない足がかり的な部分から始めてはどうか
【感想】
単純な発表ではなく、ディスカッション形式で実施されました。
地域IXという単語もこの日初めて聞いたのですが、Trafficの分散というのはやはり至上命題なのだと感じました。
中立性の時も話題になりましたが、Traffic分散によるインターネットの冗長性という観点からも、
必要なことだと感じます。
また、人的リソースの地域分散についても意見があり、Trafficを使用、管理する側の人間を
先にばらしてしまいましょうという意見は、非常におもしろいなと思いました。
【今後について】
人的リーソースの分散という点からも、やはり自動化等の一つの現場に対する
人員削減の方策をとる必要性を感じました。
方法は技術的分野だけでなく、規則や文化の面からも見直す必要があると思いますが、
とりあえず手を付けらそうな技術分野での方法を模索していく必要があると思います。
Wi-Fi 6と5Gの共存に向けて
【主旨】
5Gの出現とともにWi-Fiがいらなくなるといわれているが、そうではなく共存する必要がある
【概要】
Wi-Fiは10年ほど前から普及してきてWi-Fi6とはWi-Fiの新しい規格である
これまでのWi-Fiの課題
①CSMA方式を使用していることで発生する帯域の無駄使い
・CSMA方式とは帯域の使用に待ち時間があり、待ち時間の間は使用できない
・一つの端末が使用中はほかの端末は待ち時間となり、帯域があっても使用できない
・要は現在のAPが高密度化した状態(どこでもWi-Fiが使える状態)には適さない
②干渉について
・APが競合する場所(高密度化)では今まではどうしようもなかった
・APは違っても、同じCH1を使用している端末はどちらのAPかを認識せず、干渉の影響を受けて安定した使用ができなかった
Wi-Fi6での改善点
無駄使いについて
- OFDMA(直交周波数分割多元接続)の使用
・一つの周波数をサブキャリアに分割し、接続しているユーザーごとに最も接続効率がよいサブキャリアを割り当てる通信方式
・上記を採用することにより音声遅延の緩和やスループットの安定性を向上させる
・速度の速い通信を目指すのではなく安定した通信を実現させている
- MU-MIMO(Multi user-Multi Input Multi Output)
・複数のアンテナを使用して複数の端末が同時に通信することができる
・Wi-Fi6では最大8台の同時通信が可能(上りも下りも同時通信が可能)
干渉について
* BSS coloring
・AP間で通信を実施しており、それぞれのAPで接続している端末情報の共有し、色をつける(coloring)
・APは自分の色のついた端末が他のAPからの通信を受けている(干渉している)と判断した場合(閾値を超過)に、端末に対して他のAPからの通信を無視するようにすることができる
Wi-Fi6と5Gの使用例
- Wi-Fi6
アンライセンスで使用するのが容易であるため面展開力が高い
そのため以下の場所に適している
・オフィス
・オープンスペース - 5G
ライセンスが必要であるため使用は難しいが飛距離がある
そのため以下の場所に適している
・屋外(緊急時の通信等) - どちらの使用も考えられる場合
・工場、学校、VR,AR等
局所的な使用の場合:Wi-Fi6(飛距離がないため、広い場所での使用は不向き)
全体を網羅する場合:5G(配線等でコスト高い)
ユーザーの期待はマルチアクセス(どっちも使える)状態である
現在シームレスローミングを開発、研究中
【所感】
高速通信ではなく安定通信を目指しているように感じました。
現状のWi-Fiと4Gの関係性は特に崩すことなく、より高品質な通信を
シームレスで使用できるような仕組みや技術を使用していくのだなと感じました。
また、セキュリティへの関心が非常に高く、質疑応答でも複数人の方が
セキュリティに関する質問をしていました。
Wi-Fi6はあくまで通信の規格でありセキュリティ上の変更はないとのことなので、
今後はセキュリティに関する技術が注目され、発展していくのではないかと感じました。
【今後】
無線通信に関しては、現状業務で活かせる分野ではありません。 しかし、現状Wi-Fiやスマホの普及に伴って、今後のインフラ業界では 無線通信の運用監視を実施する可能性もあります。 また、有線無線を問わずセキュリティについては非常に高い関心があるので、 インフラエンジニアとしてはどちらも意識していく必要があると感じました。
後編に続く…