はじめに
こんにちは、IaC技術推進部の山路です。Alibaba Cloudにはリソースを管理するサービスがいくつか存在しますが、今回はその中からリソースへのタスクを自動的に実行し、運用の自動化に貢献するサービスであるOperation Orchestration Serviceについて紹介します。
Operations Orchestration Serviceとは
Operation Orchestration Service (OOS)とは、Alibaba Cloudの提供するサービスであり、文字通りリソースへの操作を自動化するサービスです。利用者はあらかじめ自動化する作業のテンプレートとその実行方法などを設定することで、作成したリソースに対する作業を自動的に実行することができます。
OOSの特徴は以下のような点にあります。
- カスタムテンプレートの作成ができる:OOSは誰でも利用できるパブリックなテンプレートが用意されています(本記事執筆時点でおよそ90種類ほど)が、利用者が定義したカスタムテンプレートを利用することも可能です。
- 複数のリージョンにあるリソースを対象にできる:OOSではテンプレートを実行する際に適用するリージョンを指定する必要があり、オペレーションを実行するのとは別のリージョンにあるリソースに対しても、OOSを適用することが可能です。
- 実行するタスクに応じて手動・自動実行を選択できる:OOSはテンプレートを実行する際、手動実行と自動実行を選択できます。自動実行ではスケジュールを設定して実行することが可能です。
- イベントドリブンな運用にも対応:OOSはテンプレートを作成する際、Actionというユニットを組み合わせてオペレーションを定義します。Actionには
eventTrigger
というものが含まれ、これを利用することでイベントドリブンに起動するテンプレートを用意することが可能です。 - 無料:OOSを利用する際に料金は発生せず、オペレーションの中で利用したリソースに対してのみ料金が発生します。
OOSの利用方法
ここではOOSの利用方法について簡単に紹介します。OOSを利用する場合、まずテンプレートを用意し、そのテンプレートの実行方法を設定することで実行されます。実行方法を指定する部分では、実行するリージョンやスケジュール、対象リソースの指定などを行います。
今回は、日本リージョン・香港リージョンにある特定のECSインスタンスに対して、ある時刻を迎えたらシャットダウンするというオペレーションを実行するよう設定します。
上記作業をOOSで実現する方法として、主に2つの方法があると考えています。
OOSの提供するパブリックテンプレートの中には、既にECSインスタンスのシャットダウンを実行するものが含まれています。そのため、対象のテンプレートを利用し、2つのスケジュールを設定することで、今回の目的である「複数リージョンにあるECSインスタンスの停止」は実現できます。上図では1番に該当する方法です。
今回は上図の2番にあたる方法、パブリックテンプレートを一部修正し、一つのテンプレート内で2つのリージョンのECSをシャットダウンする場合について検証を行いました。
テンプレートの準備
まずは実行するタスクの内容をテンプレートで指定します。
Alibaba CloudのWebコンソールから「Operation Orchestration Service」を選択し、OOSの管理画面に遷移します。次にOOSの管理画面の左側にあるメニューから「My Template」を選択します。
「Create Template」を選択し、テンプレートの作成画面に進みます。
作成画面では、まず利用するテンプレートを選択します。イチから作成する場合は「Empty Template」を選択しますが、今回は「Public Template」の中からACS-ECS-BulkyStopInstances
を選択します。
次にテンプレートの内容を定義します。OOSのテンプレートではYAML/JSON形式で定義するほかに、GUIからテンプレートの中身を作成できる「Graphical Template」という機能を提供しています。今回はYAMLでテンプレートを定義します。
ここからはYAMLの中身を変更します。まず変更前は以下のように定義されています。
定義ファイルの内容はDescription
Parameters
RAMRoles
Tasks
Outputs
の5つに大きく分かれています。
Parameters
ではテンプレート中に利用する変数を、Tasks
では実行するActionとそれに渡す引数とを定義します。またRAMRoles
は、OOSを実行する対象のリソースに対してOOSがアクセスすることを許可する必要があり、それを定義しています。
またParameters.rateControl
では、Tasks
で利用するLoop
というオプションのパラメータを定義しています。Loop
は特定のアイテムのリストに含まれる要素の数だけそのTaskを繰り返し行うよう定義することが可能で、ここでは取得したインスタンス数だけTasks.stopInstances
を繰り返すよう定義しています。Parameters.rateControl
はConcurrency
MaxErrors
というパラメータを設定し、Concurrency
は同時に実行できるアイテム数、 MaxErrors
は許容するエラーの上限を設定しています。
FormatVersion: OOS-2019-06-01 Description: en: Bulky stops the ECS instances. zh-cn: 批量停止ECS实例。 name-en: ACS-ECS-BulkyStopInstances name-zh-cn: 批量停止ECS实例 categories: - instance_manage Parameters: regionId: Type: String Description: en: The id of region. zh-cn: 地域ID。 AssociationProperty: RegionId Default: '{{ ACS::RegionId }}' targets: Type: Json AssociationProperty: Targets AssociationPropertyMetadata: ResourceType: 'ALIYUN::ECS::Instance' RegionId: regionId rateControl: Description: en: Concurrency ratio of task execution. zh-cn: 任务执行的并发比率。 Type: Json AssociationProperty: RateControl Default: Mode: Concurrency MaxErrors: 0 Concurrency: 10 OOSAssumeRole: Description: en: The RAM role to be assumed by OOS. zh-cn: OOS扮演的RAM角色。 Type: String Default: OOSServiceRole RamRole: '{{ OOSAssumeRole }}' Tasks: - Name: getInstance Description: en: Views the ECS instances. zh-cn: 获取ECS实例。 Action: 'ACS::SelectTargets' Properties: ResourceType: 'ALIYUN::ECS::Instance' RegionId: '{{ regionId }}' Filters: - '{{ targets }}' Outputs: instanceIds: Type: List ValueSelector: 'Instances.Instance[].InstanceId' - Name: stopInstance Action: 'ACS::ECS::StopInstance' Description: en: Stops the ECS instances. zh-cn: 停止实例。 Properties: regionId: '{{ regionId }}' instanceId: '{{ ACS::TaskLoopItem }}' Loop: RateControl: '{{ rateControl }}' Items: '{{ getInstance.instanceIds }}' Outputs: instanceIds: Type: List Value: '{{ getInstance.instanceIds }}'
上記YAMLテンプレートを以下のように修正しました。主にTasks
を2つから4つに増やし、それぞれ別のリージョンに対して実行するようにしました。また合わせてParameters
に必要な変数を追加しています。
FormatVersion: OOS-2019-06-01 Parameters: regionIdJapan: Type: String AssociationProperty: RegionId Default: ap-northeast-1 targetsJapan: Type: Json AssociationProperty: Targets AssociationPropertyMetadata: ResourceType: 'ALIYUN::ECS::Instance' RegionId: regionIdJapan regionIdHongkong: Type: String AssociationProperty: RegionId Default: cn-hongkong targetsHongkong: Type: Json AssociationProperty: Targets AssociationPropertyMetadata: ResourceType: 'ALIYUN::ECS::Instance' RegionId: regionIdHongkong rateControl: Type: Json AssociationProperty: RateControl Default: Mode: Concurrency MaxErrors: 0 Concurrency: 10 OOSAssumeRole: Type: String Default: OOSServiceRole RamRole: '{{ OOSAssumeRole }}' Tasks: - Name: getInstanceJapan Action: 'ACS::SelectTargets' Properties: ResourceType: 'ALIYUN::ECS::Instance' RegionId: '{{ regionIdJapan }}' Filters: - '{{ targetsJapan }}' Outputs: instanceIds: Type: List ValueSelector: 'Instances.Instance[].InstanceId' - Name: stopInstanceJapan Action: 'ACS::ECS::StopInstance' Properties: regionId: '{{ regionIdJapan }}' instanceId: '{{ ACS::TaskLoopItem }}' Loop: RateControl: '{{ rateControl }}' Items: '{{ getInstanceJapan.instanceIds }}' - Name: getInstanceHongkong Action: 'ACS::SelectTargets' Properties: ResourceType: 'ALIYUN::ECS::Instance' RegionId: '{{ regionIdHongkong }}' Filters: - '{{ targetsHongkong }}' Outputs: instanceIds: Type: List ValueSelector: 'Instances.Instance[].InstanceId' - Name: stopInstanceHongkong Action: 'ACS::ECS::StopInstance' Properties: regionId: '{{ regionIdHongkong }}' instanceId: '{{ ACS::TaskLoopItem }}' Loop: RateControl: '{{ rateControl }}' Items: '{{ getInstanceHongkong.instanceIds }}' Outputs: instanceIdsJapan: Type: List Value: '{{ getInstanceJapan.instanceIds }}' instanceIdsHongkong: Type: List Value: '{{ getInstanceHongkong.instanceIds }}'
上記のようにYAMLファイルを修正すると、Graphical Templateでは以下のように表示されます。個人的にはテンプレートの修正はYAMLフォーマットで行い、Graphical Templateは修正後の確認程度に利用するのが良いかなと感じました。
修正後に「Create Template」を選択すると、MyTemplateとして新しいテンプレートが作成されたことが確認できます。
RAMの設定
次に、OOSのテンプレートを実行するのに必要なRAMを設定します。
Webコンソールから「Resource Access Management」を選択し、RAMの管理画面に遷移し。「Create RAM Role」を選択します。
RAMロールを作成する際、ロールタイプは「Alibaba Cloud Service」を選択します。
RAMロースの設定では「Normal Service Role」を選択し、Trusted Serviceに「Operation Orchestration Service」を選択します。
RAMロールの作成が完了したので、次に「Add Permissions」を選択し、このロールに付与する権限を設定します。
今回はECSに対するフル権限を付与するため、「AliyunECSFullAccess」を選択します(なお画像では既にポリシーを付与した後の画面を載せています)。
ポリシーを付与すると、以下のようにRAMロールから確認することができます。
実行方法の設定
次に作成したテンプレートを定期的に実行するため、「Scheduled O&M」の画面に遷移し、「Create」を選択します。
スケジュールの作成画面が表示されます。ここでは、テンプレートを実行するスケジュール、利用するテンプレートとパラメータの設定を行います。
スケジュールは、特定の日時に1度だけ実行するか、指定した周期で繰り返し実行するかを選択できます。繰り返し実行する場合は、日時から曜日まで設定することが可能です。
今回は「設定した日から1週間、平日の18時00分に実行」という風に設定をしました。「End Time for Period Execution」を指定することで、実行予定のスケジュールが表示されます。
利用するテンプレートでは、先ほど作成したものを指定します。
パラメータの設定では、実行する対象のECSインスタンスを選択します。選択では、ECS毎に選択することも、特定のタグをもつECSを指定することも可能です。
今回はECS毎に選択をしました。
スケジュールを作成すると、以下のように確認することができます。「Task Status」がWaiting
の状態になり、スケジュールが設定されていることがわかります。
なお、作成したスケジュールからテンプレートを確認すると、以下のようにtimeTrigger
executeTemplate
というタスクが確認できます。Scheduled O&Mでは、スケジュール用に機能を別に備えているのではなく、実際にはCron実行用テンプレートを利用して、指定したテンプレートを実行しているようです。
実行
テンプレートの実行準備ができたので、スケジュールに設定した時間まで待機します。なお、実行前のECSインスタンスは以下の通り起動した状態です。
日本リージョン
香港リージョン
スケジュール実行時間を過ぎてから、作成したスケジュールを確認すると、「Success」という表示が確認できます。
またログを確認しても、時刻通りタスクが開始されたことが確認できます。ログ画面からは、実行開始時刻になると子プロセスが生成され、その子プロセスがタスクを実行していることが分かります。
インスタンスも停止状態であることが確認できます。
日本リージョン
香港リージョン
最後に
本記事ではAlibaba Cloud上の運用を自動化するOperation Orchestration Service(OOS)について見てきました。OOSは利用するうえでいくつかの制限はありますが、テンプレートの作成やその設定については、分かりやすく使いやすいという印象を持ちました。
また、OOSが複数のリージョンを対象にタスクを実行できる点は個人的に良い点だと考えています。以前のブログで、Alibaba Cloudを含むマルチクラウドの利用について触れましたが、中国向けビジネスを行う場合に、中国だけでなく日本にもリソースを作成し、日本の開発者やユーザーが中国リージョンのサービスにアクセスしたい、というケースは少なからず発生すると思います。そのため、複数のリージョンを対象に行う運用タスクを、OOSを利用して自動化することができるのは、このサービスの強みの一つではないかと考えています。
最後に、Alibaba Cloudのドキュメントには、OOSを利用するうえでのBest Practiceが紹介されており、ユーザーごとにOOSへのアクセスを制限する方法、Alibaba CloudのFaaSであるFunction ComputeとOOSとを連携する方法、OOSの実行に承認プロセスを追加する方法などが紹介されていますので、そちらもご覧ください。