APC 技術ブログ

株式会社エーピーコミュニケーションズの技術ブログです。

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AI議事録の固有名詞誤変換、専用ツールを使わずコーディングツールで解決した話

こんにちは。ACS事業部の越川です。

AI議事録・文字起こしツールが当たり前になった今、多くの方がこんな経験をしていないでしょうか。「社員の名前は正確なのに、顧客の固有名詞がことごとく間違っている」。私もまさにその課題に直面しましたが、専用の議事録ツールを導入するのではなく、普段使っているコーディングツールで解決できました。今回はその実践を共有します。

なお、本記事で紹介するAIツールの業務利用については、弊社のAI利用ガイドラインおよびNDAに関するコンプライアンスを遵守した上で公開しています。

AI文字起こしの「あるある」問題

Google MeetやMicrosoft Teamsなど、主要なオンライン会議ツールにはAI文字起こし機能が搭載されるようになりました。非常に便利ですが、実際に業務で使い込んでいると、ある傾向に気づきます。

  • 社内メンバーの名前は正確に認識される — 組織内の情報を持っているため
  • 取引先や業界固有の名詞は誤変換されがち — AI側にその文脈がないため

例えば、こんな誤変換が日常的に発生します。

  • 企業名「エーピーコミュニケーションズ」→「APコミュニケーションス」(半角スペースが入る、「ズ」と「ス」の揺れ)
  • 人名「越川」→「小塩川」「小柴川」(同音の別の漢字に変換)
  • 製品名「PlaTT」→「プラット」「プラッと」(カタカナ化されて表記が崩れる)
  • 略称「PE」→ 文脈なしには「Platform Engineering」なのか「Physical Education」なのか判断できない

これはAI文字起こし全般に共通する課題で、専用ツール各社が「辞書機能」で解決しようとしているテーマです。

世の中の解決策 — 専用ツールの辞書機能

2026年現在、AI議事録ツール市場ではこの固有名詞問題への対策が進んでいます。

  • ACES Meet:ユーザーが独自用語を辞書登録し、モデルを追加学習させる「辞書機能」を搭載
  • JAPAN AI SPEECH:単語の学習機能を強化し、文字起こし精度99%を謳う

いずれも専用ツール側に辞書を登録するというアプローチです。正しい解決策ですが、いくつかの課題があります。

  • メンテナンスコスト: 辞書登録は「誤変換A → 正しい表記B」を手作業で1つずつ登録する作業。新しい用語が出るたびに手動追加が必要
  • NDAの壁: クライアントワークでは、取引先の人名や組織構造などをNDAの関係上、外部サービスの辞書に登録できないケースがある。汎用的な業界用語は登録できても、本当に補正したい固有名詞ほど登録が難しい

私のアプローチ — コーディングツールのインストラクションで補正する

私がとったのは別のアプローチでした。エンジニアが普段使っているコーディングツールに、プロジェクトの文脈を持たせて補正するというものです。

仕組み

  1. AI文字起こしが生テキストを出力する
  2. そのテキストをコーディングツールに渡す
  3. コーディングツールはあらかじめ設定されたインストラクションファイルを参照し、プロジェクト固有の用語・メンバー情報をもとに誤変換を補正・整理する

ポイントは、コーディングツールのインストラクションファイルにプロジェクトの文脈を書いているということです。インストラクションファイルはプロジェクトのローカルリポジトリ内に置かれるため、外部サービスに固有名詞を送信する必要がありません。NDAで保護された取引先の人名や組織情報も、ローカル環境の中で安全に扱えます。

辞書登録とインストラクションは何が違うのか

一見似ているようですが、本質的に異なります。

観点 辞書登録 インストラクション
中身 「誤変換→正しい表記」のマッピング プロジェクトの文脈・関係性・背景
作成方法 手作業で用語を1つずつ登録 プロジェクト資料をもとにAIと協働で生成できる
補正の仕組み キーワード置換に近い 文脈を理解した上での推測・補正
未知の用語 登録していなければ補正できない 文脈から正しく推測できる

辞書は「AをBに直す」リストですが、インストラクションは「このプロジェクトはこういう文脈である」という知識です。この違いが大きく、辞書に登録していない用語でも、文脈から正しく補正できます。

さらに、インストラクション自体もプロジェクトの内部資料をもとにAIと対話しながら生成できるため、手作業の辞書登録と比べて作成・メンテナンスの負荷が大幅に低くなります。

インストラクションに書いている内容(例)

- プロジェクトメンバー: Aさん、Bさん、Cさん(役割と担当領域)
- 関連する企業名・製品名・略称の正式名称
- プロジェクト固有の用語と意味
- プロジェクトの背景・目的

なぜコーディングツールなのか

GitHub Copilot CLI、Claude Code、Cline、Cursorといったコーディングツールは、本来コードを書くためのものです。しかし、その本質はインストラクション(文脈)を理解した上でテキストを処理する能力にあります。

議事録の補正も、やっていることは「文脈に基づいたテキスト処理」。コーディングツールの得意分野そのものです。

特別な導入作業は不要 — 普段使いの延長で自然にできる

「導入ステップ」と書くと追加作業のように聞こえますが、実際はそうではありません。コーディングツールを日常的に使っていれば、議事録の精度は自然と高まります

普段の開発業務でインストラクションが育つ

多くの案件では、ドキュメントやコードをGitリポジトリで管理しているはずです。コーディングツールで日々の開発作業を行う中で、プロジェクト固有の情報をインストラクションに書いていくのは自然な流れです。

  • コードを書くために関係者の担当領域を整理する → インストラクションに反映
  • 設定ファイルのサービス名・環境名を扱う → インストラクションに文脈が蓄積
  • リポジトリのドキュメントが更新される → インストラクションも一緒に育つ

議事録の補正はその副産物

こうして日々の業務で育ったインストラクションには、プロジェクトの固有名詞・メンバー情報・文脈が既に含まれています。文字起こしテキストをコーディングツールに渡すだけで、追加作業なしに固有名詞が正しく補正されます。

つまり、議事録のためにわざわざ何かを準備する必要はありません。コーディングツールを普段使いしていれば、議事録の精度向上はついてくる。これが専用ツールの辞書登録との最大の違いです。

専用ツール vs コーディングツール

観点 専用議事録ツール コーディングツール活用
追加コスト ツール導入費用が発生 既存ツールを流用(追加コストゼロ)
辞書メンテナンス 用語を個別に手動登録 普段の開発業務で自然に育つ
NDA対応 外部サービスに固有名詞を登録する必要あり ローカルリポジトリ内で完結
柔軟性 議事録に特化 議事録以外の文書整理にも応用可能
導入ハードル 新規ツールの学習が必要 普段使いのツールなので追加学習不要

新しいツールを増やすのではなく、既存の使い方を変える

私はSIerのエンジニアとして、日々お客様の課題解決に取り組んでいます。その現場で感じるのは、課題に対して新しいツールを導入することが最善とは限らないということです。

今回の議事録補正も、専用ツールを探して比較検討していたら、それだけで時間を消費していたでしょう。しかし、既に手元にあるコーディングツールの「使い方を変える」ことで、追加コストなしに解決できました。

ツールの選定や導入には時間もコストもかかります。まず手元にあるツールで何ができるかを考えてみる。その発想の転換が、AIを活用した業務改善の第一歩ではないでしょうか。

おわりに

AI文字起こしの固有名詞誤変換は、多くの方が日常的に困っている課題です。専用ツールの辞書機能も有効な解決策ですが、もし普段コーディングツールを使っているなら、インストラクションにプロジェクトの文脈を書いておくだけで同じ課題を解決できるかもしれません。

「コーディングツールはコードを書くためのもの」という固定観念を外してみると、意外な活用法が見つかります。エンジニアの皆さんも、手元のツールの新しい可能性をぜひ探ってみてください。

参考資料

ACS 事業部のご紹介

私の所属する ACS 事業部では、開発者ポータル Backstage、Azure AI Service などを活用し、Platform Engineering + AI の推進・内製化を支援しています。

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また、GitHub パートナーとしてお客様に GitHub ソリューションの導入支援を行っています。 GitHub Copilot などのトレーニングなども行っておりますので、ご興味を持っていただけましたらぜひお声がけいただけますと幸いです。

一緒に働いていただける仲間も募集中です! ご興味持っていただけましたらぜひお声がけください。

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本記事の投稿者: 越川将人