1. はじめに
皆さんはじめまして!2026年度新卒で入社いたしました組織能力開発部の重延 宙(しげのぶ ひろし)です。
私は大学院時代、自然言語処理(NLP)の分野で「Transformerモデルのファインチューニングによる有害情報の自動検出」というテーマで研究をしていました。そのため、AIについては多少の知識はありますが、ネットワークやセキュリティといったインフラ領域に関しては、全く触れておらず勉強中の身です。
そんな私が、先日開催された国内最大級のネットワークイベント「Interop Tokyo 2026」に参加してきました。 本記事では、大学での研究経験と、今回学んだインフラの最新トレンドを照らし合わせながら、特に印象的だった「AIトラフィックの可視化と制御」について、私個人の視点に基いてレポートしたいと思います。
2. Interop Tokyo 2026の第一印象:会場の熱気とキーワード
会場に足を踏み入れると、華やかなブースと大勢の来場者、そして会場全体を包む圧倒的な熱気に驚かされました。
ルータやスイッチといったハードウェアが並ぶ中、展示やセッションを巡るうちに「AIネイティブ・インフラ」「次世代型脆弱性」「証明書の自動更新」といったトレンドワードが飛び交っていることに気づきました。インフラの世界が今、どのような立ち位置にあり、どこへ向かおうとしているのかを肌で感じることができました。

数ある展示や講演の中で、特に私の心に深く刺さったのが、Netskope Japan株式会社の栄藤 稔氏による基調講演でした。
3. 基調講演:『「人がつくらない通信」をどう守るか』
栄藤氏の講演『「人がつくらない通信」をどう守るか 〜AIトラフィックが主役になる時代のネットワークとセキュリティ設計〜』は、AI技術の劇的な変遷を振り返ることから始まりました。
3.1. AIの進化と「制御」の難しさ
今や社会に浸透したAIですが、そのターニングポイントは「Transformer」モデルの登場でした。栄藤氏は「ここまで実用レベルに来るとは思わなかった」と振り返っておられましたが、大学院で同モデルを扱っていた私にとっても、その進化速度は想像を絶するものでした。
私が大学4年生でNLPの研究を始めた2023年頃は、ChatGPTが登場したばかりの時期で、まだ返答の誤りも多く人間の意図を完璧に汲み取るには至っていませんでした。 しかし、2026年現在、AIの性能は飛躍的に向上しました。私が扱っていた「皮肉の検出」という当時は難しかったテーマも、今はLLMのプロンプトひとつで、こちらの意図に沿った精度の高い回答が返ってきます。「自分の研究テーマが、LLMで全部解決してしまうのではないか」そう思わされるほどの進化の速度に、私自身、日々驚かされていました。
実際、開発現場では体制に変化が起きはじめているとのことです。かつてはフロントエンド、バックエンド、インフラといった職能ごとにチームを組んでいましたが、今は「人間1人と複数のAIワーカー」という最小単位で動く「タクシーチーム」が提唱されており、その開発効率は従来型と比較し、約25倍にも上るとのことでした。
そんな、AIの進化に圧倒されていた中、講演の中盤でこんな問いが投げかけられました。
「チンパンジーは、人間を制御できるでしょうか?」
この問いを聞いて「それは無理だ」と笑ってしまうかもしれません。しかし、人間の知能を超えるAGI(汎用人工知能)が現実味を帯びる今、私たちはその「自分たちより賢い存在」をコントロールしようとしています。果たして私たちは、知能で勝る相手に対して、チンパンジーにならずにいられるでしょうか?
AIの「倫理観(アライメント)」に期待するだけでなく、いかにして人間が制御権を持ち続けるか。利便性を追求する一方で、この「制御」という観点を忘れてはいけないのだと、改めて考えさせられるお話でした。
3.2. 進化に伴うリスクと、実時間での「可視化・制御」
AIが自律的に動くようになれば、当然そこに生じるリスクも増大します。 記憶に新しい2026年4月の「Mythos」や、公開停止となった「Fable 5」の例にある通り、AIが自律的にシステムの脆弱性を判断し攻撃を仕掛けるという脅威は、もはや現実のものとなっています。
セキュリティの世界には「攻撃側は1箇所を突けばいいが、防御側はすべてを守り続けなければならない」という非対称性があります。こうした状況で未知の脅威に対抗するには、「通信の発生点でリスクを可視化し、即座に制御する」というアプローチが重要です。
ここで興味深く感じたのが、モデルの「内側」を解明しようとするNLPの「Interpretability(解釈可能性)」という潮流が、インフラの世界でも「ネットワークという外側から挙動を可視化する」という形で共通して現れている点です。NLPでは、ブラックボックス化したAIが「なぜその回答に至ったのか」という内部機序を明らかにすることで信頼性や妥当性を担保しようとします。対して、インフラの世界では、AIがネットワーク上で「どのような通信を行っているか」という外部の挙動を捉えることで制御を試みます。アプローチするレイヤーこそ違えど、見えないものを可視化することで、制御不能なリスクを管理可能な状態に置くという思想の根本は同じなのだと理解しました。
今後、AIエージェント同士が人間を介さずに通信するトラフィックの総量は、動画ストリーミングの通信量すら上回ると予測されています。この膨大な通信において、AIが外部データやAPIを呼び出すための標準的なプロトコルとして普及が進んでいるのが「MCP(Model Context Protocol)」です。 しかし、このMCPを用いた通信には、以下の3つの大きな課題が指摘されています。
- 認証の脆弱性
- ツールへの過度な権限付与
- M2M(マシン間)通信の不透明性
これに対し、Netskopeが提唱しているのが「実時間強制制御型ゼロトラスト」という考え方です。これは、リアルタイムかつ自動で検知し、強制遮断・隔離を行う次世代のセキュリティモデルです。 具体的には、以下のようなコンポーネントによってAIトラフィックの安全性を担保します。
Agentic Broker:AIエージェントと外部ツールのMCP通信を中継し、機密情報の流出や不正なツール操作をリアルタイムに防ぐ。
AI Gateway :外部AIや自社ホストのLLMへのアクセスを一元管理し、API通信経由のデータ流出や未許可AIの利用をネットワークレベルで遮断。
AI Guardrails :プロンプトと回答の内容をリアルタイムに解析し、プロンプトインジェクションや不適切な回答などの脅威をブロック。
AI Red Teaming:AIに対して擬似的な攻撃を行い、防御側の有効性を継続的に検証する。
「見えないものは守れない」というこの言葉通り、AIという急速に進化するブラックボックスに対し、ネットワークレイヤーで透明性を確保し、異常があれば即座に止める。この実時間での可視化と制御こそが、これからのインフラ・セキュリティにおいて最も重要な要素なのだと、改めて認識することができました。
4. おわりに
講演の最後にあった、「公共の安全、プライバシー保護、利便性向上はトレードオフの関係にある」という言葉が非常に印象に残っています。 AIによる圧倒的な利便性を享受しつつ、いかに安全性を担保するか。その鍵となるガバナンスとは、ネットワークのどこにコントロールポイントを置くかという「設計」そのものであることを学びました。
また「どんな技術もどこかで繋がっており、無駄になる知識はない」ということを強く実感しました。 将来的には、今学んでいる「インフラ」、そして今回の大きなテーマであった「AI」と「セキュリティ」を掛け合わせ、複雑化する課題を多角的に解決できる技術者を目指していきたいと考えています。 まずはネットワークの基礎をしっかりと固め、インフラ初心者としての危機感と新しい領域への好奇心を忘れず、一歩ずつ着実に成長していきます。
メンターからのひとこと
本記事の作成の支援を担当した、エンジニアリングメンター室の横地です。エンジニアリングメンター室では、このようアウトプットを支援する活動を行っています。私の立場からひとこと添えさせていただきます。
もともと、自然言語処理の分野で研究をしていたという点、とても頼もしく思いました。そういった学術的な知識や知見をベースに、産業での活用の話を聞いたことで、非常に解像度高く情報をインプットできたのではないかと思います。
印象に残った言葉として「公共の安全、プライバシー保護、利便性向上はトレードオフの関係にある」が挙げられていました。トレードオフがあるということは、常に不変の唯一の正解がないということです。この分野を解像度高く考えられる力を持っていることで、業務でも多角的な視点でバランスよく、その時々における最適解を導き出せるのではないかと思いました。活躍を期待しています。
お疲れさまでした!