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7-Elevenが実践したDatabricks Unity Catalog移行の現実解:UCXツールで複雑な大規模移行を成功に導く

※本記事は、Data + AI Summit のセッションを現地で視聴したエンジニアが、内容をできる限り客観的に共有することを目的に、生成AIを活用して作成したものです。 ― エーピーコミュニケーションズ Lakehouse部

DatabricksのUnity Catalog(UC)への移行は、多くの企業にとってデータガバナンスを近代化するための重要なステップです。しかし、長年運用されてきた複雑なデータ基盤、いわゆる「Brownfield」環境からの移行は、決して平坦な道のりではありません。 先日開催されたData + AI Summitのセッション「Story of a Unity Catalog (UC) Migration: Using UCX at 7-Eleven to Reorient a Complex UC Migration」では、7-Elevenでアーキテクチャとガバナンス担当ディレクターを務めるGanesh Susarla氏と、DatabricksのデリバリーソリューションズアーキテクトであるPrashanth Subrahmanyam氏が登壇。巨大リテール企業である7-Elevenが、いかにしてこの難題に取り組み、成功を収めたかについて、具体的な戦略と教訓が共有されました。本記事では、その講演内容を基に、大規模なUC移行を成功させるための要点を解説します。

なぜ移行が必要だったのか:従来アーキテクチャが抱える課題

講演の冒頭でGanesh氏は、Unity Catalog導入前の7-Elevenのデータ環境が「断片化されていた(fragmented)」状態であったと振り返ります。開発者が直接ストレージのマウントパスを参照し、テーブルの命名規則が統一されていないなど、「mess(めちゃくちゃな状態)」だったと語ります。

従来のDatabricks環境で広く使われてきたHive Metastore (HMS)はワークスペースごとにメタデータを管理するため、組織横断での一貫したガバナンスやアクセス制御、データ共有が困難です。7-Elevenのような巨大組織では、このアーキテクチャの限界がデータ活用のサイロ化や品質管理の複雑化を招いていました。

Unity Catalogへの移行を「プラットフォーム加速器」と捉える戦略

7-Elevenの移行プロジェクトがユニークなのは、彼らがこの取り組みを単なる技術的なアップグレードとは見なさなかった点です。Ganesh氏は、「私たちはこれを移行プロジェクトではなく、UCオンボーディングと捉えました。UCは我々にとって『プラットフォームアクセラレータ』として機能したのです」と強調します。

彼らの目標は、単にHMSからUCへ移行することではありませんでした。その先にある、組織全体のAI製品開発能力の向上とデータ活用の民主化を見据えていたのです。この移行を好機と捉え、データプラットフォームそのものを再構築するという大きなビジョンを掲げました。

データプラットフォームの再構築:データメッシュとメダリオンアーキテクチャ

7-Elevenが目指した未来像を実現するために、2つの重要な設計思想が導入されました。データメッシュとメダリオンアーキテクチャです。

データメッシュは、中央集権的なデータ管理から脱却し、各事業部門(ドメイン)が自律的にデータの所有権を持ち、プロダクトとして提供する分散型アプローチです。Ganesh氏は「データメッシュアーキテクチャでは、組織内のあらゆるビジネスユニットが自身のデータを投入し、加工し、ガバナンスを適用し、最終的に高品質なAIプロダクトを構築できるようにしたかった」と述べます。Unity Catalogは、このような分散環境において、統一されたガバナンス、アクセス制御、リネージュ管理を実現する基盤として不可欠でした。

そして、データの品質と信頼性を担保するために採用されたのがメダリオンアーキテクチャです。これはデータを「Bronze(生データ)」「Silver(クレンジング・整形済み)」「Gold(ビジネス集計済み)」の3つの層に分けて管理するベストプラクティスです。7-Elevenは、移行を機に既存のテーブル群をこのアーキテクチャに沿って再整理し、データの流れを標準化。セルフサービス分析の土台を築きました。

大規模Brownfield移行の挑戦:無停止でのライブマイグレーション

7-Elevenが直面した最大の課題は、事業を一日たりとも止めることなく移行を完遂することでした。Ganesh氏は「我々のオペレーションは常にフルスピードで動いており、ダウンタイムや業務中断という選択肢はなかった」と語ります。

多くの企業が週末にダウンタイムを設ける中、7-Elevenは「ライブマイグレーション」を選択。Databricksが提供する同期・逆同期機能を用い、HMSからUCへデータを同期しつつ、逆同期も同時に実行。ユーザーは移行中もHMSとUCをシームレスに利用でき、多くのエンドユーザーは移行が進行していることすら気づかなかったほどスムーズに移行が進みました。

UCXツールの戦略的活用:移行スコープの最適化と資産整理

この複雑な移行を計画通りに進める上で、Databricks Labsが提供するオープンソースツール「UCX (Unity Catalog Migration Assistant)」が決定的な役割を果たしました。

Prashanth氏によると、UCXは特に以下の点で大きな価値を発揮しました。

アセスメントと互換性チェック:既存環境をスキャンし、テーブル種別やコードの互換性問題を検出。リファクタリングが必要な箇所を事前に洗い出せました。

スコープの最適化:UCXの分析機能で未使用テーブルやワークフローを特定し、移行対象のワークフローを約40%削減。工数を大幅に削減しました。

優先順位付け:HMSのリネージュ機能を活用し、ビジネスインパクトの高いレポートから逆引きして、優先的に移行すべき領域を特定。

最終的に、7-Elevenは約1500~2000の不要テーブルを廃止し、データ基盤をクリーンな状態に生まれ変わらせました。

7-Elevenの事例から学ぶベストプラクティスと教訓

  1. 未来のアーキテクチャから逆算して計画する: UC移行を単なる技術作業と捉えず、データメッシュやセルフサービス分析といった将来のプラットフォーム像を実現する好機とする。
  2. 資産の棚卸しを徹底する: 移行を機にクローゼットのように不要データを整理・廃止。UCXなどを活用してスコープを最適化しよう。
  3. 無停止移行を計画する: 同期・逆同期機能を利用すればビジネスへの影響を最小限に抑えながらライブマイグレーションが可能。
  4. Databricksとの協業をためらわない: UCXの機能拡張など、ツールや機能に関するフィードバックを通じて自社要件に合わせたサポートを得ることが成功の近道。

まとめ:Unity Catalog移行がもたらす真の価値

7-Elevenの事例は、Databricks Unity Catalogへの移行が単なるガバナンス強化やコスト削減に留まらず、データ基盤を近代化し、組織全体のデータ活用能力とAI開発能力を飛躍的に向上させる「プラットフォーム変革」であることを示しています。明確なビジョン、先進的な設計思想、そしてUCXを戦略的に活用した実行計画が、成功の鍵となりました。これからUC移行を検討する組織にとって、7-Elevenの歩みは価値ある道標となるでしょう。