はじめに
こんにちは、クラウド事業部の丸山です。
普段何気なく使っているインターネット通信技術やメッセージアプリ。
そのすべてを陰で支える「暗号化技術」の存在を、あなたはどれだけ意識していますか?
先日、古代から現代までの暗号技術の歴史を紹介するYoutube動画を見て、学生時代に勉強した暗号理論の記憶が蘇ってきました。
そして同時に、悲しきかなほとんどの知識が風化していることに愕然としました。
改めて復習をしていこうと思ったため、何回かに分けて暗号化技術の歴史と仕組みについて、実装も交えながら学習していくことにしました。
今の時代は本当に便利で、情報は調べれば出てきますし、仕組みの実装も生成AI頼みで動作を確認できてしまうので非常に助かります。
さて、前置きもほどほどに暗号の歴史を語る上で避けて通れないのが、今回紹介する「シーザー暗号」です。
なんと2000年以上前に考案されたこの暗号方式が、現代の高度な暗号システムのルーツであることをご存知でしょうか?
最も初期の暗号として知られるこの手法は、その名の通りローマ帝国の英雄ガイウス・ユリウス・カエサル(シーザー)によって実戦で使用されました。
現代のエンジニアからすれば「え、こんな単純なもので?」と驚くほどシンプルな仕組みですが、西洋暗号学の源流として今なお重要な存在です。
では、帝国を支配した男が愛用した秘密通信技術とは一体どのようなものだったのでしょうか?
その仕組みと驚くべき弱点を、今回は実際にブラウザ上で試せるデモも交えながら解き明かしていきましょう。
権力者の秘密通信 - シーザー暗号の歴史的背景
紀元前1世紀、ローマの将軍であり後に帝国の独裁者となったユリウス・カエサル。
彼は常に戦場と政治の最前線にいたため、軍事通信における機密性の重要性を誰よりも理解していました。
敵に情報が漏れれば軍隊全体が危険にさらされる、その切実な課題を解決するため、
カエサルは驚くほど単純ながら当時としては革新的な暗号法を採用したのです。
カエサルは「信頼できない使者を通じて送る必要のある重要な通信」にこの暗号を常用していたとされています。
興味深いことに、カエサルの後継者アウグストゥスも同様の暗号を愛用していました。
彼は「A」を「B」に置き換える(すなわちシフト量1)という規則をお気に入りにしていたようです。
「なぜそんな単純な方法が効果的だったのか?」と思われるかもしれません。
その答えは当時の社会事情にありました。読み書きのできる人が極めて少なかった古代社会では、文字を少しでも変形すれば、
大多数の人々にとっては解読不能な暗号になったのです。
まさに「文字が読める」という特権的スキルと「ちょっとした工夫」の組み合わせが、
2000年前の世界では最先端のセキュリティ技術だったのです。
魔法のような文字変換 - シーザー暗号の仕組み
ではいよいよ、シーザー暗号の核心に迫りましょう。その仕組みは驚くほどシンプルです。
シーザー暗号は「換字式暗号」と呼ばれる暗号の一種で、アルファベットの各文字を一定数「ずらして」別の文字に置き換えるという方式です。
たとえば、シフト量3の場合(カエサルが実際に使っていたとされる数):
- A → D(Aから3文字後のD)
- B → E(Bから3文字後のE)
- C → F(Cから3文字後のF)
- ...
- Z → C(Zの3文字後、アルファベットが一周してCに)
というように、各文字を決まった数だけずらしていきます。これにより、例えば「ATTACK AT DAWN」(夜明けに攻撃せよ)という平文は「DWWDFN DW GDZQ」という一見無意味な文字列=暗号文に変換されます。
受け取った側は、この逆の操作を行うことで元のメッセージを取り出せます: この「驚くほどシンプル」な仕組みこそが、シーザー暗号の最大の特徴であり、同時に致命的な弱点でもあるのです。
崩れ去る秘密 - シーザー暗号がいとも簡単に破られる理由
カエサルの時代には効果的だったシーザー暗号ですが、現代の目で見ると驚くほど脆弱です。
その理由は主に2つあります:
1. 鍵の候補が極めて少ない(ブルートフォース攻撃の脆弱性)
シーザー暗号の「鍵」は「何文字ずらすか」というシフト量だけ。
英語のアルファベット26文字では、使用可能なシフト量は実質的にたった25通りしかありません(シフト量0は暗号化しないのと同じ、またシフト量26はシフト量0と同じになるため)。
つまり、暗号文を手に入れた第三者は、シフト量を0から25まで片っ端から試してみるだけで、必ず正しい平文にたどり着けるのです。
この「総当たり(ブルートフォース)」による攻撃は、現代のコンピュータはもちろん、紙と鉛筆だけでも実行可能なほど単純です。
例えば「DWWDFN DW GDZQ」という暗号文があった場合、25通りのすべての可能性を試すと、シフト量3のところで突然意味のある英文「ATTACK AT DAWN」(夜明けに攻撃せよ)が現れます。まさに「暗号解読の魔法」が目の前で起きる瞬間です。
2. 頻度分析という魔法の解読法
より洗練された解読方法が「頻度分析」です。この方法は、長い暗号文に対して特に威力を発揮します。
重要な事実は、「どんな言語でも、文字の出現頻度には特徴的なパターンがある」ということ。
例えば、英語の文章では「E」が約12.7%、「T」が約9.1%の頻度で出現するそうです。
この特性を利用すれば、暗号文中に最も頻繁に現れる文字は、平文では「E」である可能性が高いと推測できます。
この方法を使えば、25通り全部を試さなくても、頻度分析だけで正しいシフト量を特定できる可能性が高まります。
驚くべきことに、この頻度分析は1000年以上前に発見された技術なのです。
シーザー暗号が長期間にわたって使われ続けたことを考えると、暗号と解読のいたちごっこの歴史の奥深さが見えてきますね。
教育的宝石としてのシーザー暗号
シーザー暗号は、その単純さゆえに暗号学の入門教材として無限の価値を持っています。
基本的な暗号概念(置換、鍵、暗号化・復号化のプロセス)を理解する上で、これ以上なく理想的な例なのです。
プログラミング学習においても、シーザー暗号の実装は絶好の練習課題です。
文字列処理、モジュロ演算(剰余演算)、配列操作などの基本スキルを実践できるからです。
シーザー暗号から始まり、より複雑な暗号へと学びを深めていくことで、
暗号化の本質「情報を特定の人だけが理解できる形に変換する技術」を体系的に理解することができるでしょう。
デモ体験 - 2000年前の暗号技術を実際に試してみよう
さあ、いよいよ実践編です。シーザー暗号の暗号化・解読を実際に体験してみましょう。
以下のデモでは、平文の暗号化、ブルートフォース攻撃による解読、そして頻度分析まで試すことができます。
カエサルになった気分で、あなただけの秘密のメッセージを作ってみてください!
暗号化
全数探索による解読(ブルートフォース攻撃)
頻度分析
次回予告:解読不能とうたわれた魔法の暗号
次回は、シーザー暗号の致命的な弱点を克服するために考案された「ヴィジュネル暗号」の世界に踏み込みます。
「なぜこの暗号は300年もの間『解読不能』と信じられていたのか?」
複数のシフト量を巧みに組み合わせることで単純な頻度分析を無効化し、
300年近くも「解読不可能な暗号」として君臨したヴィジュネル暗号の秘密と、
それが最終的にどのようにして解読されたのかについて次回はお届けしようと思います。
おわりに
私達クラウド事業部はクラウド技術を活用したSI/SESのご支援をしております。
また、一緒に働いていただける仲間も募集中です! ご興味持っていただけましたらぜひお声がけください。